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風俗嬢への説教は万国共通!?

2016年10月26日

鈴木涼美「おじさんメモリアル」

『「AV女優」の社会学 なぜ彼女たちは自らを饒舌に語るのか』(青土社)、『身体を売ったらサヨウナラ 夜のオネエサンの愛と幸福論』(幻冬舎)などの著作で「性を商品化する」女性たちの内面を活写し注目されている文筆家の鈴木涼美が、「おじさん」をテーマに日刊SPA!で連載する「おじさんメモリアル」第12回!

【第12回 説教オジサン、国境を超える】

 風俗嬢のひとりごと的なブログやマンガやエッセイに度々登場する、プレイしておきながら「きみ、こんなことしてていいの?」と説教たれてくるオジサン。ワタクシ鈴木が若いころには、未だキャバクラ嬢の人権も今よりやや弱かったため、キャバクラのお客さんにもおりました。「こういう仕事って長く続けるのはよくないと思うよ?」「ここで稼げるオカネよりも、もっとやらなくてはならない大切なことがあるのでは?」「簡単にオカネを手に入れるのはよくないよ」。

 岡崎京子先生の漫画『pink』の冒頭部分でも出てきますね。いかにもそんなカンジの腹の出たちょっと禿げかけたしおれた日本男子が「きみにこんなこと言っても」的なイラッとする前置きの上で説教する場面が。匿名風俗嬢のブログなどに登場するとあまりにステレオタイプ過ぎてネタか?と思ってしまうほどみんながみんな紋切り型の台詞を吐く。なんか私たちのあずかり知らないところでマニュアル本でも売ってるんですかね? プレイ後の礼節みたいな項目で、「親身になっているふりをしてちょっと偉そうに説教をしましょう」「そうすると、オンナを買ってる自分の自尊心への揺さぶりが心なしか溶けます。社会道徳や女性の人権への罪悪感も軽くなります」とか?

 別にその説教おじさんを否定するのが私の本意ではありません。これだけ「アルアル」的な存在だと、もはやそのコトバは別に風俗嬢を脅かしたり導いたりする威力はゼロに近いわけだから、別に存在自体にそれほど害はないから、それでおじさんが救われるなら、聞くに堪えない説教も、甘んじて聞いてあげようという心優しいキャバ嬢風俗嬢が多いでしょうし、ストーカー化したり暴力ふるったりするリアル有害客よりは流せる程度の存在でありましょう。そんなんで心の自己洗浄をしてから帰ってくれるなら、オンナの側からしても心置きなく万札をもらえるっていうものです。

 しかし、私の大学の後輩であるナナの同僚の体験を聞いた時には、私も驚き笑い視界が広がった気がしました。ナナというのは私の7つ歳下、つまり大学で直接先輩後輩としてじゃれあったなかではなく、たまたま出身大学が同じ(キャンパスは違うけど)という女の子で、私が以前書店で開いたサイン会付きトークショーみたいなところに来てくれてから何度か個人的に連絡を取り合い、飲みに行ったこともある女の子です。彼女はすでに超大手ではないけれど小さくて優良な企業に就職して、おそらく夜の世界からは遠ざかっていますが、大学を出てから一時期、海外に行ったりちょっとした仕事をしたりフリーな立場を楽しんでいた時期があり、その時に一度麻布十番に事務所がある高級デリヘルに在籍していました。ヒビキさんという当時30歳くらいだった女性は、そこでの彼女の同僚。

 ヒビキさんはそのデリヘルのホームページでは、「25歳の元モデル! 現役丸の内OL、最高レベルのルックスにしなやかにのびる手足、白い素肌」とかなんとか紹介されていた、内実は昔々、読者モデルを一瞬だけやったことがある、というかどちらかと言えばストリートオシャレスナップに出たことがある、30歳の現役デリヘル嬢、ホストのヒモ付き、そこそこのルックスにしなだれた胸の持ち主だったが、それくらいはまぁそんなものである。感じがよく、ドライバーらに好かれる嬢だった。そして、そのデリヘル店では唯一、そこそこ英語をしゃべることができた。


最近、大手デリヘル店では中国人観光客を中心とした外国人客の集客に力を入れている。外国語のホームページを用意したり、場合によっては外国人専用の店舗を別に構えたり、女性の面接シートに使用可能言語の記入欄を設けたりと甲斐甲斐しいが、実際英語を流暢に話せる嬢はどこでも少ない。しかしキャバクラならそれなりの障害になる言語も、身体で話せる業種はハローニコニコ5万円プリーズくらいの会話であとは下のお口が喋るから、ちょっとの障害にしかならず、外国人の利用は年々増えているという。特に高額の店。

 もちろん、英語ができればそれに越したことはないので、ヒビキさんはその店では外国人対応としても重宝されていた。最も多いのは、中国人やベトナム人などのビジネスマンが日本に来た際に、お迎えしている日本企業の人がデリヘルをごちそうする接待デリヘルであるが、もちろん、日本をそれなりに調べた文化的好奇心の高い外国人さまは、自分で調べて自分でメールなどで予約をしている。短いビジネストラップの場合などはまだ日本に付く前にというか旅立つ前に予約するお客も多いようで、空港でスキップしている様子が思い浮かばれてなかなか微笑ましい。

 で、そんなお客は仲介に入る風俗大国ニッポンのビジネスマンがいないため、ヒビキさんのような英語OK嬢はより一層重宝される。その日も、「英語しか喋れなそうなお客さんだけど」と店から説明された上で、ヒビキさんはドライバーの運転のもと、ペニンシュラのロビーに向かった。ロビーで探して、と言われたお客の外見の特徴は、背が高くグレーのセーターを来た白人。ヒュー・グラント的なものを想像していたあたりがヒビキさんのかわいいところなのだが、実際来たのはチャーリー・シーンをもっと老けさせたようなルックスのお固めな白人男性だった。

 ハローナイストゥーミーチュー的な挨拶を済ませた後、彼はヒビキさんを伴ってエレベーターに乗り、スイートルームの扉を開けた。180分コースの料金約15万円を支払うと、彼は木製のテーブルの上に置かれた小さな紙袋を彼女に渡した。ツヤのある紙袋に印字された文字は「GUERLAIN」。アラサーオンナの大好きな高い化粧品ブランドである。中に入っていた口紅は自分で買うにはやや赤が赤すぎるものであったものの、ゲランの化粧品を彼女は歓迎した。さらに小さい包みを渡され、そのゴディバのチョコレートもまた彼女には気の悪くない程度に嬉しいギフトだった。

 カタコトの英語で受け答える彼女に、彼もまたネイティブではない英語で彼がベルギーから仕事の関係で一週間日本に滞在しにきたこと、すでにこれで五度目の来日であること、ベルギーの料理はレストランによってはフランスよりも美味しいフレンチだということなどを話した。チャーリー・シーン顔ではあるものの、物腰柔らかで清潔感のある白人おじさんに彼女は好感をもった。シャワーに促すと彼は従順に従い、自分でボディソープを手にとってすでに風呂済であろう身体を丁寧に洗った。

 シャワーを浴びてお互いバスローブ姿になり、再びソファの部屋へ戻った。彼は白人男性にありがちなムードを醸し出したいソフトタッチで彼女への、風俗用語で言うところの全身リップを立ったまましだした。そして、フェラチオするときにもコンドームをして、というこれもまたヒビキさんにとってはゲラン並に嬉しいギフトメッセージを囁いた。彼のソフトタッチに合わせて、荒波のたたない湾の海のようなプレイを一通りすると、この低いテンションでよくやったねというタイミングで彼は射精し、彼は一時満足そうな顔をしてベッドルームにヒビキさんをいざなった。

 英語が「喋れる」といっても母国語ではない、しかもそれほど得意でもない言語でのピロートーク、しかも残りまだ2時間強という状況に気が重くなりながらもヒビキさんは彼の横に横たわり、彼が射精の反動で寝てしまわないかな、と思って腕などをさすっていた。しかし、彼はまったくごきげんな瞼でベッドサイドにあるミネラルウォーターなどを飲みながら、「I never do this in my country」(これは東洋の国での仕事の合間にする火遊びだぜ)というような話をしだした。

 彼の話をヒビキさんがカタコトに翻訳し、それに私のよけいな解釈を加えると要はこんな感じである。「ヨーロッパでも身体を売る女性はいるが、性病患者であることも多く、怖くてとても遊ぶ気にはならない。それにこういった行為は道徳的にも、性感染症のリスクといった意味でも実に慎むべき行為である。君は僕が頼まなかったらコンドームをせずに僕のアソコをなめたであろう。日本人のお客はオーラルセックスの時にコンドームをつけないだろう。HPVウイルスやHIVウイルスの怖さを知っているかい? そしてこういった行為が君を愛する人達にとってショッキングな事実であることを想像しているかい? これはきみにとってベリーバッドな仕事だよ。僕は半年後にまた日本に来るが、そのころまでこんな仕事を続けてはいけないよ。ベリーバッドだ。キミが想像しているよりバッドだ。キミは傷つく。なぜこんな仕事を始めた? まともな仕事では生活ができないか? 親は生きてるか? 他者から多少の援助を受けてでもこういった仕事は避けなくてはならない」。

 ヒビキさんの拙い英語力でも、彼が言っていることはよくわかった。英文にしたら長い彼のスピーチを早口で日本語でナナたちに報告できるほどに、知らない単語もどんな意味か手に取るようにわかった。なぜか。聞き取れる最低限のコトバで、彼の言わんとしていることは容易に想像できたからだ。風俗歴4年、すでに腹の出たすだれハゲのおじさんたちから何度も何度も聞かされた話だ。「ジーザス」。インターナショナルな感嘆を心の中で響かせながら、ヒビキさんは帰りの車の中でゴディバを噛み締めた。

 風俗嬢に説教をする慣習は、どうやら海をも超えるらしい。本当にマニュアル本があるのなら、少なくとも5ヶ国語くらいに翻訳された世界的ベストセラーのはずである。




日本人のお客はオーラルセックスの時にコンドームをつけないだろう…
だから、日本人限定なんだっての
外国の病気には弱いんですよ、日本人は、外人OKの風俗店はヤバいんだけど
もう遅いよね、性病はめぐるゼ!



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